「あのー、ここの問題教えて欲しいんだけど・・・」
その瞬間、教室中の視線は僕へと向かった。
隣のクラスで一番のマドンナの南野さんが、友達が一人もいない僕に話しかける。
その非現実的な光景を皆、驚きの表情で動きも固まったままで。
六時間目の終了を告げるチャイムが鳴った直後の事だった。
「え、なんであいつに!?」
「うわ、あの人に話しかけてる人初めて見た!!」
「あああ、オレのマドンナが汚される!!」
そのヒソヒソ話が証明している通り、僕には本当に友達がいない。
休み時間も昼飯も、常に一人で過ごしている。
時に話しかけてくる女子はいるが、それは男子との賭けで負けた罰ゲームらしい。
だから勉強以外にする事がなく、おかげで成績は学年トップになれた。
「あの、これも罰ゲームですか? あ、慣れてますから大丈夫です」
いつもならこの後はお決まりのパターンで、
“キャー!助けてー!もうこれでいいでしょー!?キモーい!!”
だけど今日はいつもと違った。マドンナは首を左右に振った。
「いや、でもオレは知っての通り、マトモに女子どころか男子とも話した事がありません。
フォークダンスで誰にも手を繋いでもらえない程、みんなに僕は嫌われています。
だから、南野さんも軽蔑されちゃいけないから、誰か他の人を探してください」
「ほら、やっぱり優しい人だ」
「え?」
「私はずっと前から思ってたんだ。きっと優しい人なんだろうなって。
友達が出来ないんじゃなくて、友達を作らないだけなんだろうって。
みんなを傷付けたくないから友達を作らないんだろうなって」
「あ、いや、その・・・」
「じゃあ、私が友達になる!さぁ早速この問題教えてよー!!」
南野さんはかわいいだけじゃなく、この明るさと人の良さが人気の秘訣だ。
周りのヒソヒソ話も、この頃には男子連中の嫉妬に聞こえてきた。
“僕に出来た初めてのフレンド”
「じゃあじゃあ、ここは騒がしいから静かな場所に行こうよ!!」
「えっと、じゃあ僕が知ってる勉強部屋に行く?」
「行く行く!じゃあ校門で待ってるね!!」
そう約束すると、南野さんはダッシュで自分の教室へ戻って行った。
僕はドキドキしながら帰りの準備をした。
クラスの男子から飛んでくる紙くずや文句を受けながら。
僕のフレンドは本当に校門で待っていた。
緊張しながら歩いてくる僕に向かい、大きく両手を振ってくる。
かわいい、本当に南野さんはかわいい。
勉強部屋に向かいながらも、南野さんは僕にどんどん話しかけてくる。
周りから見たら、カップルだと思われているのかな。
そういえば、女子とこんなに話したのはいつ以来だろうか。
勉強部屋までの距離はとても長く感じた。
「勉強部屋ってどこー?図書館?それとも秘密の隠れ家みたいなー?」
「あ、うん、もうすぐ着くよ」
「今日はいっぱい勉強教えてよねー!」
「あ、ここがその勉強部屋だよ」
「アンタって本当にサイテー!ぶっ死ねすぞ!!」
「あ、待って、南野さん・・・」

フレンドってセックスのフレンドじゃなかったのね。
逆に教えて欲しかったのに。