「おかえりぃ」
二本の時計の針が仲良く真上を向いた暗い時間でも、例え幽霊さえ眠る丑三つ時になっても、いつも彼女は眠たそうな瞳を擦りながら、残業で疲れ果てたオレの帰りを笑顔で出迎えてくれる。
部屋にはいつも眠気覚ましのメロディが流れていて、そうして睡魔と戦っていた素振りも見せずにオレを爽やかに出迎えてくれる。そんな彼女はオレの何よりの自慢だ。何も無いオレの唯一の自慢だ。
「おかえりぃ」

ほら、今日もこんな時間にも関わらず、オレを笑顔で出迎えてくれた。
その笑顔はどんな効能の温泉よりも、どんな上手なマッサージ師よりも、どれだけ高級な栄養ドリンクよりもオレの疲れを吹っ飛ばしてくれるんだ。しかも驚くことに一瞬で吹っ飛ばしてくれる。
彼女は男の苦労を知っているんだろう。オレが遅くなった理由など一言も聞く事も無ければ、仕事の話を切り出してくる事も無い。だからオレはそれに甘えていたのかも知れない。
愛とか信用ってやつは、どうも崩れると修復出来ないらしく、ひとつのピース無くしてしまったジグソーパズルの様だ。もう二度とそのパズルは完成しない。
全ては彼女の信用を裏切ったオレが悪いのだが。
たった一夜の恋という海に飛び込んだら、彼女という浮き輪は沖へと流されて行ったのだ。そしてオレは孤独な海で溺れ、どれだけ手足をバタつかせながらもがき苦しんでも、もう浮き輪はそこには見付からない。

そしてオレは一人になった。
部屋の中には、あの時のメロディが流れている。
ランキングが125位(笑) 我ながらザコ(笑)
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