それは良く晴れた日曜日の午後、三十年前に自ら起こした工場が数日前に倒産し、真っ昼間から酒に溺れ、街中を彷徨っていた時の話。もう整髪料で整える必要も無くなった髪は寝癖のついたまま、伸びっぱなしのヒゲ、もう何日も取り替えていないシャツ、そして青いビニールバッグ。まるでホームレスのような身なりで街を千鳥足で歩く。どうやらオレの周囲には目に見えないバリアーが張られているらしく、すれ違うOLが半径二メートル以内を避けて通る。
幼い頃に親友と賭けをしていた。親父の転勤で離れ離れになる前に交わした勝負、一切お金を賭けない純粋なギャンブル。その内容はオレ達が定年になった時に、どっちが金持ちになっているかだった。そして今、オレはこんな生活をしている。あと三年で定年だったのだが、ゴールを迎えずに負けを迎えてしまった。
その親友の名前はアキオ。四歳から十二歳までの八年間、毎日のように遊んでいた幼馴染だ。夕日が沈むまでただ走り続けたり、線路を越えて野イチゴを採りに冒険したり、収穫が終わった後の田んぼで泥まみれになってじゃれ合ったり。その時、偶然にも写真家の卵がそれを見て、泥まみれで抱き合うオレ達の写真を撮ったんだっけな。あの写真家の卵もその賭けに参加してたんだが、泥まみれのオレ達を被写体にするレベルのセンスだから写真家としての成功はしていないだろう。
そんな感傷に浸りながら、こんな時間に営業している酒場を探している時だった。向こうから歩いてきた男が、千鳥足でオレの見えないバリアーの中に立ち入ってきたのだ。きっとこの男も何かストレスが溜まっているのだろう。身なりは綺麗な格好をしているが、オレと同じ臭いがした。同じ臭いと言ってもアルコールの臭いでは無い。その男は泥酔しているのか、顔をチェリーのように真っ赤に染め「賭けに負けたよ 負けた」と小言をブツブツとこぼしている。
オレはその男に肩を貸した。しかし千鳥足の男が千鳥足の男を支える事が出来るわけもない。オレ達は倒れては起き上がり、倒れては起き上がり、まさに七転八起、そういえばオレの人生もそうだったよなとケラケラ笑った。するとその男はクスクスと笑った。そしてオレはその男に何の賭けに負けたんだと聞いた。
酒臭い口から放たれた呂律の回らない言葉は、幼い頃に親友と交わした賭けの話だった。どこかで聞いた事のある話だったが、オレは最後までその男の思い出に付き合った。
その男は幼少時代に親友と賭けをしたらしい。その賭けというのは、お互いが定年後にどっちが金持ちになっているかという子供らしい発想のギャンブルだ。その親友とは、毎日毎日カラスが鳴くまで遊んだり、線路の向こうに秘密の基地を作ったり、雨上がりの田んぼで泥まみれになって遊んでいたらしい。実は賭けをしていたのは二人だけで無く、その時偶然通りすがった写真家の卵とも賭けをしていたと言う。しかしその男の話では、彼はまったくセンスのない写真家で、きっと真っ先に賭けから脱落しているだろうとの事だった。
オレはその話を聞いてアキオの事を思い出した。同じ女の子を好きになって、恋より友情が大事だったので互いに譲ったが、結局彼女は全然知らない隣のクラスの男と付き合って朝まで一緒に泣いた記憶や、バレンタインの日にどっちが多くチョコレートを貰えるか勝負して、結果はどちらもゼロだった記憶。他にも思い出せないくらいの沢山の記憶。オレがその話をすると、その男もイヒヒと笑った。こいつとは昔から一緒に居たような気がしてならない。
どうだ、ちょっとそこの酒場で飲まないか?
いいな、お前とは初めてのような気がしないんだよ。

そして賭けに負けた者同士、青い空の下を彷徨った。
ランキングが125位(笑) 我ながらザコ(笑)
男の、男による、男のためのアダルトショップ
賭けには負けても何かを取り戻せた感じがするよ。